大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)1887号 判決 1974年6月27日

原告

飯降修

ほか三名

被告

東宝運輸こと武藤弟二

ほか一名

主文

一  被告らは、各自原告飯降修に対し、金四七七、五四一円およびうち金四二七、五四一円に対する被告酒井運送株式会社は昭和四七年五月一三日から、被告武藤弟二は同月一八日から支払済まで年五分の割合による金員を、その余の原告らそれぞれに対し、金三五三、三六一円およびうち金三一八、三六一円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告らの連帯負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は各自、原告飯降修に対し、金一、九七八、三三四円およびうち金一、七七八、三三四円に対する被告酒井運送株式会社は昭和四七年五月一三日から、被告武藤弟二は同月一八日から支払済まで年五分の割合による金員を、その余の原告らに対し、それぞれ金一、四八七、二二二円およびうち金一、三五二、二二二円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

訴外飯降マサヱ(以下、亡マサヱという)は、次の交通事故により死亡した。

(一)  日時 昭和四六年一一月二日午前八時三五分ごろ

(二)  場所 大阪市福島区鷺洲二丁目二番地先道路上

(三)  加害車 普通貨物自動車(大阪一き三二八号)

右運転者 訴外石本徳次郎

(四)  被害者 亡マサヱ

(五)態様 亡マサヱが自宅前歩道上を清掃中、後退運転して来た加害車が轢過した。

二  責任原因

1  被告武藤

(一) 運行供用者責任(自賠法三条)

被告武藤は、加害車を所有し、自己のため運行の用に供していた。

(二) 使用者責任(民法七一五条一項)

被告武藤は、自己の運送業のため訴外石本徳次郎を雇用し、同人が被告の業務の執行として加害車を運転中後方に対する注視義務を怠つた過失により、本件事故を発生させた。

2  被告酒井運送株式会社(以下、被告会社という)

(一) 運行供用者責任(自賠法三条)

被告会社は、加害車を業務用に使用し、自己のため運行の用に供していた。

(二) 使用者責任(民法七一五条一項)

被告会社は、自己の営業のため訴外石本徳次郎を雇用し、同人が被告会社の業務の執行として加害車を運転中後方に対する注視義務を怠つた過失により、本件事故を発生させた。

三  損害

(一)  亡マサヱの逸失利益 三、五六五、〇〇〇円

亡マサヱは事故当時五三才で、家業であるタイプ用品の販売に従事し、年間三五〇、〇〇〇円の収入を得ていたものであるところ、同人の就労可能年数は死亡時からその平均余命である二四・二四年、生活費は年間一二〇、〇〇〇円と考えられるから、同人の死亡による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次の計算のとおり三、五六五、〇〇〇円となる。

(三五〇、〇〇〇円-一二〇、〇〇〇円)×一五・五=三、五六五、〇〇〇円

(二)  権利の承継

原告修は、亡マサヱの夫であり、その余の原告らはいずれも亡マサヱと原告修との子であるから、前記亡マサヱの逸失利益を原告修においてその三分の一に当る一、一八八、三三四円、その余の原告らにおいてそれぞれその九分の二に当る七九二、二二二円を相続により取得した。

(三)  葬祭費用 二八〇、〇八〇円

(四)  慰藉料 合計六、五〇〇、〇〇〇円

亡マサヱは、家事はもちろんのこと家業の手伝いもしていたのであつて、同女の死亡は原告らにとつて一家の支柱を失つたに等しいところ、慰藉料額は原告修に対し二、〇〇〇、〇〇〇円、その余の原告らに対しそれぞれ一、五〇〇、〇〇〇円が相当である。

(五)  弁護士費用 合計六〇五、〇〇〇円

原告修に対し二〇〇、〇〇〇円、その余の原告らに対しそれぞれ一五〇、〇〇〇円

(六)  損害の填補 四、五一〇、〇八〇円

原告らは自賠責保険から本件事故による損害賠償として四、五一〇、〇八〇円の支払を受けた。

五  本訴請求

よつて第一記載のとおりの判決(遅延損害金は訴状送達の日の翌日から民法所定の年五分の割合による。ただし弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁

一  被告武藤

(一)  請求原因一項の事実は認める。

(二)  請求原因二項の事実は訴外石本の過失の点を除き認める。

(三)  請求原因三項の事実中、(二)(六)の事実は認めるが、その余の事実は争う。

二  被告会社

(一)  請求原因一項の事実は認める。

(二)  請求原因二項の事実中、本件事故が被告の業務の執行中に発生したことは認めるが、その余の事実は争う。すなわち、被告会社は、事故当日仕事が多忙であつたため被告武藤に応援を求め、雑誌類の運送の下請を依頼したものであつて、加害車は被告武藤の所有であり、また訴外石本は同被告の被用者であるから、被告会社は本件事故による損害を賠償すべき責任はない。

(三)  請求原因三項の事実中、(二)(六)の事実は認めるが、その余の事実は争う。

第三被告らの過失相殺の主張

本件事故の発生については亡マサヱにも次のような過失があるから、損害賠償額の算定に当つて斟酌すべきである。

すなわち、訴外石本は、原告方の南側に隣接する被告会社の倉庫に進入すべく、加害車の後退運転を開始する際一旦下車して積荷の有無を確認したのち乗車し、バツクミラーにより左右後方を注視しながら後退して倉庫に進入したのちはじめて前方に亡マサヱが歩車道にまたがつて倒れているのを認めたものである。ところで、加害車は後退運転する際には自動的に尾灯が点滅し、かつ警笛が鳴るように装置されており、事故当時もこの点に欠陥はなかつたから、亡マサヱが原告ら主張のように歩道上の清掃をしていたとしても、亡マサヱには加害車の後退運転の際の右合図に全く気づかず清掃を続けた過失がある。

第四被告らの主張に対する原告の答弁

被告らの過失相殺の主張は争う。

第五証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因一項の事実は当事者間に争いがない。

二  責任原因

(一)  被告武藤

請求原因二項の1(一)の事実は当事者間に争いがない。したがつて、その余の点について判断するまでもなく、被告武藤は、自賠法三条により、本件事故による原告の損害を賠償すべき責任がある。

(二)  被告会社

〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。

(1)  被告会社および被告武藤はともに物品の運送等を業とするものであるが、被告武藤は、本件事故の一年ほど前から継続的に自動車を運転手つきで賃貸していたもので、契約は月単位に締結されて賃料は日給制で、運転手と自動車は通いであつた。それで、運転手は、毎朝一旦は被告武藤の事務所に出勤し、自動車の準備をととのえて被告会社の営業所へ赴き、そこで被告会社の指示に従つてその業務に従事していた。

(2)  被告武藤は、本件事故当時その所有の加害車を運転手としてその従業員である訴外石本をつけて被告会社に賃貸していたもので、訴外石本は、本件事故当日一旦被告武藤の事務所に出勤し、そこから加害車を運転して被告会社の倉庫へ赴きその付近路上で駐車して業務の指示を待つていたところ、和歌山方面への運送の指示を受けたので荷物の積載のため右倉庫に進入しようとして加害車を後退運転中に本件事故を発生させた。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実によると、被告会社は、加害車に関して自賠法三条の運行供用者に該当すると解するのが相当である。したがつて、その余の点について判断するまでもなく、被告会社は、自賠法三条により、本件事故による原告の損害を賠償すべき責任がある。

(三)  過失相殺に対する判断

〔証拠略〕によると、訴外石本は、加害車を運転して被告会社の倉庫へ赴き、その北側に隣接する原告ら方の前道路(幅員七メートルの車道の両側に幅二メートルの歩道が設置されている南北に通じる道路である)上の車道西端に駐車し、荷物を積載するため右倉庫に進入しようとして時速約五キロメートルで後退運転中、左折しながら約二・五メートル後退した際に左後輪を歩道に乗り上げさらになにかに乗り上げたような抵抗を感じたが、そのまま約七・九メートル後退進行したところ、左前方に倒れている亡マサヱを発見したことが認められる。

ところで、〔証拠略〕によると、訴外石本は、後退運転を開始するに際して、加害車の後方左右の安全を確認した旨供述しているけれども、〔証拠略〕に照らし考えると、同人は、加害車の後方左右の安全を十分に確認することなく後退運転を開始したものと推認される。

また、〔証拠略〕によると、加害車は、後退運転の際には自動的に尾灯が点滅し、ブザーが鳴るようになつていることが認められるけれども〔証拠略〕によると、亡マサヱは、加害車の後退運転開始とほとんど同時に加害車の衝突により転倒せしめられ、そして轢過されたものと推認される。

右認定の事情によると、本件事故の発生について、亡マサヱには過失は認められず、また他に亡マサヱの過失を認定せしめるに足る証拠もない。したがつて、被告らの過失相殺の主張は理由がない。

三  権利の承継

原告修が亡マサヱの夫であり、その余の原告らが亡マサヱと原告修の子であることは当事者間に争いがない。

四  損害

(一)  亡マサヱの逸失利益 一、六一二、六二五円

〔証拠略〕によれば、亡マサヱは事故当時五三才で、家業であるタイプ用品の販売に従事し、年間三五〇、〇〇〇円の収入を得ていたことが認められるところ、同人の就労可能年数は死亡時から一二年、生活費は収入の五〇パーセントと考えられるから、同人の死亡による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次の計算のとおり一、六一二、六二五円となる。

三五〇、〇〇〇円×〇・五×九、二一五=一、六一二、六二五円

そして、亡マサヱの右逸失利益を原告修においてその三分の一に当る五三七、五四一円、その余の原告らにおいてそれぞれその九分の二に当る三五八、三六一円を相続により取得することになる。

(二)  葬祭関係費用 二八〇、〇八〇円

〔証拠略〕によると、原告らは、亡マサヱの葬祭関係費として少なくとも二八〇、〇八〇円を要したことが認められる。

(三)  慰藉料 合計四、〇〇〇、〇〇〇円

本件事故の態様、亡マサヱの年令、親族関係、その他諸般の事情を考えあわせると、原告修の慰藉料額は一、三〇〇、〇〇〇円、その余の原告らの慰藉料額はそれぞれ九〇〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

(四)  損害の填補 四、五一〇、〇八〇円

原告らが自賠責保険から本件事故による損害として、四、五一〇、〇八〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

そこで、右金員から葬祭関係費用二八〇、〇八〇円の弁済にあてた残額四、二三〇、〇〇〇円を、原告修に対しその三分の一に当る一、四一〇、〇〇〇円、その余の原告らに対しそれぞれその九分の二に当る九四〇、〇〇〇円を各その本件事故による損害賠償債権の弁済にあてることとする(この弁済方法が当事者の意思に合致しているものと考えられる)。

よつて、原告らの前記損害額から右損害の填補額を差引くと、被告らに対し賠償を求めるべき金額は、原告修において四二七、五四一円、その余の原告らにおいてそれぞれ三一八、三六一円となる。

(五)  弁護士費用

本件事案の性質、審理の経過、認容額等に照らすと、原告らが被告らに対し本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求めるべき弁護士費用額は原告修において五〇、〇〇〇円、その余の原告らにおいてそれぞれ三五、〇〇〇円が相当であると認められる。

五  結論

よつて被告らは各自、原告修に対し、四七七、五四一円、およびうち弁護士費用を除く四二七、五四一円に対する損害発生の後である本訴状の送達された日の翌日であることが記録上明白な、被告会社は昭和四七年五月一三日から被告武藤は同月一八日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、その余の原告らに対しそれぞれ三五三、三六一円、およびうち弁護士費用を除く三一八、三六一円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告らの本訴各請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 新崎長政)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例